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薬害との闘い

私はいま、自分の将来のためにイタリア語を習っている。私のクラスの生徒は月曜ということもあり、だいたいが目上の奥様たち。みんな一生懸命に楽しみながらイタリア語を習っている。

ある時そのうちの一人の女性から
「そうそう、○○さんにはまだ差しあげて無かったわ。よかったら読んでね。」

とある一冊の本を手渡された。

「ありがとうございます!」
私はその本を受け取りざっと目次を見てみた。その内容は、ある薬害にかかってしまったというものであった。

一見すると、温和でステキな女性が、実はそんな体験をしているなんてと一瞬驚いたが、あとでゆっくり読ませてもらおうと初めは軽い気持ちでその本を受け取った。その後、彼女たち数名と軽い食事をし、イタリアのこと、社会のこと、将来のことなど話題に富んだ時間を楽しく過ごした。まさかこんな明るい彼女がこんな体験をしていたなんて。。

その時はまだ、彼女が歩んでこられた壮絶な人生を知る余地もなかった。

『この命、つむぎつづけて』(田中百合子著/毎日出版社 \1400)は、田中さんが突如『スモン』という薬害に襲われ、その後さまざまな病に打ち勝ってきた彼女の半生が綴られている。
私はこの本を読んで、とても強い衝撃を受けた。薬害スモンの悲惨さにショックを受け、改めて薬の怖さを知らされた。こんな悲惨なことがあっていいのだろうか。そして、一番感銘したのが、彼女の強さ、明るさ。本書は、薬害の悲惨さを訴える一方、田中さんが20歳という若さで発病してからどのように歩んでこられたかという自伝であり、プライベートな部分もかなり盛り込まれている。本書を読みながら一緒に彼女の人生を歩んでいるかのようだった。そこには決して病に屈しない強くて明るい田中さんが描かれている。

スモンという悲惨な病気によって失ったものは計り知れないけど、この病気で得た大切な友人や、病気にかかっても変わらないままでいてくれた学生時代の真の友人、あと何よりも大事なものが家族であった。家族がいたからやってこれたと田中さんは綴る。
学生時代に電撃的に出逢ったご主人とは、スモンにかかる前に付き合い始めた。病気になってしまい付き合うことに躊躇っていた彼女を、「君は、君だから」といって両手を広げて全部受け止めてくれた方だそうだ。その後、スモン被害者は国と製薬会社を相手取り裁判を起こすが、生来温和な田中さんを先頭に立たせて闘おうと、彼女にビラ配りなど色々アイディアを出してくれたそうだ。田中さんはこのご主人に会うべくして出逢ったのだと思う。

薬害スモンは、日本における厚生省指定の難病第1号。彼女たちは、二度とこのような薬害被害者を出してはならないという思いで闘ってきた。その気持ち、行動を本書を通して知ることができた私はこのことを少しでも知ってもらえるよう、つたない文章だがこのブログに薬害スモンのことを書きたい。
ほんの数行の文章でこの壮絶な薬害の事実を語るのは失礼にあたるし核心に触れることができないので、本来ならすべきではないのだろうが、私個人として自分自身の記憶に残すためにも書いて、そして少しでも多くの人に知ってもらいたいという気持ちから、ほんの少しだが書かせいただくことにした。

スモンとは、亜急性・脊髄・視神経・抹消神経症(Subacute Myelo-Optico Neuropathy=SMON)というもので、その当時(昭和30年後半頃)医者から処方された整腸剤に含まれていた「キノホルム」という成分が原因で、ある日突然猛烈な腹痛に襲われ足先がしびれてしまったり、失明、下肢障害などに襲われるもの。全国に2万人以上とされる日本で最大規模の薬害事件である。
整腸剤に含まれていたことから、当時お腹の具合が悪い人がその薬を処方されたことによりスモンになってしまったが、ある時には、国の催しものや国際大会などがあるからといって、万が一下痢などの感染症が地域に広まったら大変だからとわざわざ国からその薬を飲むように指示されかかってしまった人々がいたのだ。なんてことだろう。田中さんは当時まだ20歳の大学生。将来は建築家になるという大きな希望を抱いて毎日輝かしい大学生生活を過ごしていた矢先、やはり医師から処方された整腸剤でスモンになってしまう。 それからというものの、田中さんの生活はそれまでとは180度ガラっと変わってしまった。スモンによる足の麻痺、副作用、重度の下痢などで入退院を繰り返す。あんな若さでと思うと読者である私も悔しくて悔しくてたまらなかった。スモン被害者は、昭和47年第一次提訴をする。裁判中も、重篤の被害者が一人また一人と命を落としていき、田中さんは最終的にスモン訴訟東京地裁原告団の事務局長となるのだ。

みんな苦しい痛い体をおして、訴訟に臨んだらしい。頑張って頑張って頑張りすぎて、ストレスが最高潮に達しみんな最終的にはガンとなって命を落とすのだ。 彼女は、亡き同士、戦友のために立ち上がった。もうすでに体力と資金の限界にきてる原告側の中には、和解しようという声が出てきたが、孤立してもいいと思いながらも第一次訴訟の国との和解に「NO」をたたきつけ判決を求めた。判決は、「勝訴」。だが、被告側は即刻控訴してきた。
これまで、一生懸命痛い体にムチを打って東奔西走し続けた原告田中さんの体はすでに限界に達していた。断腸の思いで和解をせざるを得なかったのだという。

それからの田中さんは、潰瘍性大腸炎で10年余り苦しみ、その後大腸癌を患い3度にわたる大手術で、大腸の全摘手術を行った。もしもスモンにならなかったら起こらなかったであろうこれらの病。そう思うと言葉にならない。だけど、彼女は何事もあきらめない強い精神と明るい性格で数々の困難を乗り越えてきた。本当に脱帽である。こんな過酷な人生を背負わされても彼女はこう語る。

『私の病気は、スモンも潰瘍性大腸炎も大腸ガンも、わたしが生きるうえで一番大切なものをみつけるための、長い途上での出来事だったのかもしれない。』

今は、病床についていた時に身につけた絵画と、元来の文才を活かしてブログを書いたり執筆活動しているとのこと。また、講演会を依頼されれば体の許す限りは出向いて講演会を行っているそうだ。

田中さんは毎年、学生時代の友人たちと「綾の会」という絵画の個展を開いていて、今年は6月4日-6月9日に開催する予定。
本の表紙には、ご家族の絵を載せている。絵の下には、「My lovely Family」とあり、田中さんのご家族を想う気持ちが伝わってくる、非常に温かい絵となっている。

毎日こういった活動をしながら精力的に動いておられるお姿は本当に天晴れである。

この本を通して、「生きること」とは何ぞやということを改めて考えさせられた。この世に生を受け生かされているという事、元気に毎日動き回れているということを感謝しないではいられない。

Konoinochi_

単行本: 238ページ
出版社: 毎日新聞社 (2005/08)
ISBN-10: 4620317365
ISBN-13: 978-4620317366
発売日: 2005/08
商品の寸法: 19 x 13.4 x 2.2 cm
おすすめ度:
5つ星のうち 5.0

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コメント

makoさま
「この命つむぎつづけて」の感想をこんな風に書いてくださってありがとう。
とてもとても嬉しいです。
一人でも多くの人が、世の中には薬害って言うものが
あったんだと、知ってくださったら、まずそれがとてもうれしいです。

またお会いできることを楽しみにしています。

投稿: yuriko | 2008年5月31日 (土) 09時24分

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